2014年8月23日から25日に行われた、京都府京都文化博物館で行われた第9回映画の復元と保存に関するワークショップのリポートです。
主催は「映画の復元と保存に関するワークショップ」運営委員会。映画の復元と保存の意義、最新事情、今後の課題について理解を深め、参加者の交流により国内外のネットワークを強化することを目的としたワークショップで、今年で9回目を迎えます。講義が2日間、実習が1日と計三日のスケジュール。かなり内容の濃いワークショップでしたので、記事を数回に分けます。
映画保存協会(FPS)
フィルムの復元作業にも多く関わり、運営委員会の代表として活動している大阪芸術大学 太田 米男教授は開会の言葉で、多くの無声映画やナイトレートなどフィルムが失われていることを杞憂し、アーカイブを充実して残して行こうという動きがあると同時に、デジタル化での問題など映画の復元と保存の問題は今後さらに重要になると述べています。
「京都府京都文化博物館の取り組み」京都府京都文化博物館 森脇 清隆氏
フィルム上映の施設を持ち、ワークショップの会場としても場所を提供している京都文化博物館の、地域に根ざしたアーカイブ活動としての取り組みが講演されました。1988年に開館した京都文化博物館は、日本映画発祥の地である京都という土地の利を生かし、映像資料を収集・保存・公開し、新たな映像文化の創造と振興を図っています。京都で製作された作品を中心に古典・名作映画など約800点を所蔵しており、その中で映画の復元も行っていますが、地方の公的な施設として復元の財源が難しいといった問題が発生しているそうです。そのため多くの啓蒙的な活動をしています。
京都府京都文化博物館
京都文化博物館はフィルム専門のアーカイブ施設というわけではなく、京都文化の歴史資料館として美術品や工芸品も収集展示しています。その中でフィルムと同時にシナリオ・書籍、ポスター・写真、映画機器なども保存し、映画美術の一部や記録台本、予算表や経営資料といった文化的資料も残されています。これらは文庫形式で収蔵しており、例えば監督別などで分類し同じ本であっても1点だけではなく、重複することもあるそうです。森脇氏は「500年後の人に伝えるのに、何を残せばば良いかを考える」といった視点で収集保存をしていると語っていました。
上映設備はKinoton FP38E。35mmと16mmは兼用でフィルムゲートの交換が必要。スクリーンは5穴のアルミ吹き付けで、マスクは左右しか無く電動と手動の両方で対応しています。問題はここにもあり…メンテナンスは継続していますが再生機が3年前に製造中止になっています。つまり、いつまでフィルムが上映できるかわからない状況です。
Kinoton(すでに映写機はありません…)
フィルムセンターと同じくフィルムを低温保存し、フィルムの収蔵庫は温度5度、湿度40%で保存され、上映される1日前にならしのため温度15度、湿度50%の30平米の部屋に移動されます。フィルムは凍る手前で保存するのが一番良いとされているそうです。
森脇氏は開館当時、子供たちへのワークショップに着目せず実現出来なかったこと後悔していると語っています。現在では「おもしろ映像製作ワークショップ」など、子供たちにわかりやすくプロジェクションマッピングや手づくりアニメーションを用いて実際に映像に触れる体験を提供し、次世代の人材育成をしています。
ぶんぱく子ども教室 | おもしろ映像ワークショップ 京都府京都文化博物館
京都文化博物館では「京都若手才能育成ラボ」や「京都国際子ども映画祭」などに協力するなど様々な普及活動をおこない、さらに地域産業活性化として地元商店街、京都アニメーションとコラボした作品「たまこまーけっと」の上映、イベント開催など積極的に活動しています。
TVアニメ『たまこまーけっと』公式サイト
保存、復元にはお金がかかります。地域に根ざしたアーカイブは息長くしていく必要があり、その土地での活動が重要で、支持層を耕し価値を認めてもらえる土壌がないと継続が難しいとしています。
「東京国立近代美術館フィルムセンターにおける復元の取り組み」 大傍 正規氏
フィルムセンターにおける映画復元への取り組みとして、フィルムセンター 大傍 正規氏が講演を行いました。5月にマケドニアのスコピエで行われた FIAF(国際フィルム・アーカイヴ連盟)の年次総会の中でフィルムをどうやって後世に伝えて行くか、なにができるかが議論されたそうです。「アナログ映写自体がすでに遺産である」ということから、フィルムセンターにおける復元の取り組みがレポートされました。
FIAF(国際フィルム・アーカイヴ連盟)
平成 25 年度末で所蔵フィルム本数が72290本。フィルムセンターでは非常勤含め18人がおり、年間2000本弱をデータベースに登録しています。近年、テレビなどで聞いたといった理由でフィルムセンターに寄贈が増えているそうです。
東京国立近代美術館-フィルムセンター
復元とは『安全に保護し長期保存することで、劣化を防ぎ、オーセンティックな「真正なバージョン」として、現像所の技術者と相談しながら、当該フィルムの特徴を把握し、当時で入手可能な技術を用いて複製すること』としています。
映画保存とフィルム・アーカイブ活動の現状に関するQ&A
アナログで復元、複製を行う場合フィルムが必要になります。フィルムメーカーはフィルムの生産を縮小または停止しており、例えば、16mmから直接16mmにデュープを取る事ができず、35mmインターネガを取らないといけない状況になっています。
映写環境自体も危機で、2012年にランプやレンズなどの部品供給も手掛けていた国内の映写機メーカー日本電子光学が倒産、さらに映写用のレンズにしてもイスコがシュナイダーに吸収されるといった背景もあります。
儲からない事業は縮小していくといった経済サイクルが、フィルム上映環境をさらに厳しいものにしています。
フィルムセンターでは、生フィルムはいつまで確保できるか、アーカイブと現像所など共同で業者に働きかけるなどしてフィルムストックの調査を行う事や、生フィルムの生産停止に備え、フィルム生産設備の調査を行う必要があると述べていました。
現像所に関しては、ラボ設備についての調査やアーカイバルラボの需要についての調査、復元ラボで仕事のできる特別なエキスパートを育てるといった事が課題で、一連のフィルムプロセッシング現像、タイミング、プリント作業、フィルム映写に関する技術に関して「遺産」として文章化し残していかなければならないとしています。
デジタル化に関しては、デジタルスキャンのコストや、デジタルジレンマの問題で本当に「真正なバージョン」として復元保存ができるのかといった問題があるとしており、アナログコピーとスキャンデータのクオリティの比較やアーカイブする際にどんな問題が発生するか、友好的なアーカイブラボと協力したり、スキャナーメーカーとの関係を強化するなどして新しいデジタルワークフローが必要だと述べています。また、カラー映画のより真正な復元のためのデジタル復元として、初期カラーを含めた、様々なカラーシステムについての調査研究を保存科学、写真保存、色彩科学などの専門家を含めた議論が必要だとしています。
収蔵庫に関しては、相模原分館に重要文化財映画保存フィルム収蔵庫として映画保存棟Ⅲが竣工し、可燃性フィルム(ナイトレート)の収蔵に関しては数十年間は問題なく行えるが、収蔵能力についての調査や収蔵庫のクオリティの調査を進めるとともに、東京光音などと協力して、劣化のスピードの調査を引き続き行っていくそうです。
株式会社東京光音:古いフィルムも復元できる!
今後の課題として、ビネガーシンドロームなどの匂い対策や人間工学に基づいた作業環境に改善していくとともに、極端な例でいうと、アナログ復元を諦めるといったことから、関連機器の入手や自前の設備の充実、海外のラボを利用するといった様々な視点でも考慮する必要があると語り、民間企業と協力してアナログ復元や映写を守っていく事が重要であるとしていました。
アーカイブってなに?
さてここで、問題です。アーカイブってなんでしょう。…バックアップとは違います。
私見ですが…「アーカイブとは後々使うために、わかり易くまとめておくこと」だと思います。消費社会、複製社会の世の中、新しい物が毎日作られてどんどん消費されています。その中で何を残すか…選択する必要があるんですよね。フィルムセンターではフィルムという存在自体に価値があり、その物、その中に記録されている物は将来必ず価値を生むだろうと見て収集、保存、復元をしているんだと思います。一方、京都府京都文化博物館ではその土地柄に主題をおき文化的な意味で収集保存活動をしています。
「映画フィルムをすてないで!」というキャンペーンにあるように、無くしてしまったフィルムという物質はもう手に入りませんし、そこに記録されている物も再び記録する事はできません。アーカイブそのものが資産になるんだと思います。
「映画フィルムをすてないで!」FIAF70周年記念 マニフェスト
さて、この後は1日目のライトニングトーク。さらに面白い話が聞けました。
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