BMDによりCintelが買収されました。これはフィルムメーカーにとって衝撃的であり必然的な出来事です。DaVinciはグレーディングツールとして有名ですがCintelとは深い関わりがあります。
これにはモーションピクチャーの歴史を振り返る必要があります。
写真から映画へ
映画は静止画の連続です。フィルムを透過し連続で再生することで映画が誕生します。
プリントされたフィルムは直接つなぎ合わされていました。様々な所で再生するためにコピーが必要になり、コピーを作るためにネガが使用されるようになります。写真と同じくネガがあれば大量にコピーが可能だからです。
フィルムはラボで現像されます。
やがて映画はカラーになり、プリントする際に色を調整する事が可能になります。これがタイミングと呼ばれる作業です。
テレビの時代
TVが出現し撮影されたフィルムを放送するためにテレシネが開発されます。Cintelはこのテレシネのメーカーです。
初期のカメラは大型でとても持ち運びはできませんでした(CCDやセンサーはまだ無く、撮像管です)。VTRも大型で、報道などで使われるENGのハンディーカメラは存在しません。16mmや35mmのフィルムカメラで撮影していました。 今よりもっとフィルムが使われていた時代です。
Sonyがベータカムを作りハンディーカメラの時代に突入します。輝かしい過去の歴史です。
テレシネとグレーディング
ネガフィルムには多くの情報が残されています。フィルムはNTSCに比べ広いラチチュードを有しています。(最近LogやRawでダイナミックレンジが…と言うのはこのことです。)
テレシネではNTSCのカラースペースに収めるための色調整を行います。(日本で言うテレシネはこの色調整も含みます。)かつてのテレシネはグレーディングとセットでした。
テープにそのまま書き出すためリアルタイム処理が必須で、高速な専用機が必要でした。
技術革新
PCの処理速度が上がると共に高解像度化していき、HDやフィルムプリント、DCP(デジタルシネマパッケージ)など様々な出力形式へ対応する必要が出てきました。HD以上の高解像度で色調整をした場合、ファイルとして保存するか一度プリントをしなければなりません。
中間でプリントをしないデジタルインターメディエイト方式が一般的になっていき、次第にテレシネからフィルムスキャニングへと移行していくことになります。ここでテレシネとグレーディングが分離します。
グレーディングの利点
スキャニングで取り込んだデータはそのまま編集に移行することができます。更に取り込んだデータから細かく処理することが可能になります。
デジタルカメラの出現
4Kのムービーカメラが出現しました。解像度はもう写真と同じです。撮影されたデータは全てファイルで処理されます。再びモーションピクチャーの時代に戻ります。
なぜ今Cintelが必要なのか?
今までの豊富なフィルム資産をデジタルアーカイブする必要があります。新しく現像されるフィルムは存在せず現像はもう必要なくなるかもしれません。ですが古いフィルムはデジタルで修復する必要があります。
フィルムとテープは過去の遺産になりつつあります。それは大量輸送が船から飛行機に移ったようなもので、もう後戻りは出来ません。
BMDのDaVinci、ATEM、Teranex、Cintelの買収やCinema Cameraの流れをを見るとモーションピクチャーから放送、ネット配信の流れが読み取れます。これは今まで長年をかけてSonyが歩んできた道に近い気がします。
コメント
石河さん、こんにちは。今までこちらのサイトを存じ上げませんでしたが、先ほどさっそくRSS登録させて頂きました。宜しくお願いします。
数日前に海外から流れてきたこのニュースの第一報を読み、おぉ〜!とは思ったものの、ただ『BMDがCintelを買収した!』だけじゃ、きっと意味がわからない人が大勢いるよなぁ、でも背景から書くとなると大ごとだなぁ(面倒だなぁ)と、結局、ボクはスルーしちゃったんですが(爆)、いやはやお見事!伝えるべきことを網羅しつつ、こんなに完結にまとめられて…。ボクが記事を書いたら、きっとこの5倍くらいのボリュームになっていたことでしょう。石河さんの編集手腕に脱帽。
ありがとうございます!昨日はお疲れ様でした。Open DCPやJVCのカメラの話とか凄く参考になりました!昨日出たビデオ史の話もそうですが、バックグラウンドが分からないと今が見えてこないんですよね。自分は口下手なので文字とか映像とかで何かしら表現出来ればイイかななんて思ってます。「思いは言わなきゃ伝わらない」気がします。