グレーディングとフィルムプロセス

グレーディングとフィルムプロセス

Blackmagic Design DaVinci Resolve および DaVinci Resolve Lite 9のパブリックベータ版がリリースされました。   DaVinci Resolveはデジタル現像処理とカラーコレクションを同時に行うことが可能です。カラーグレーディングにはフィルムプロセスの理解が重要です。  

 

 

フィルムの現像プロセス

フィルムで写真(ムービー)を撮影した事がある方は分かると思いますが、撮影後フィルムは現像所(ラボ)に出し現像します。現像所でどのような工程があるのか、フィルムの現像プロセスについて見てみます。  

 

フィルムの構造

まずフィルムについて知る必要があります。フィルムはベース(ポリエステルなど)の上に感光剤(乳剤:エマルジョン)が何層にも塗られています。感光剤に銀が使用されている事からフィルムが銀塩と呼ばれています。

この銀が感光した時点で結晶化し結像します。   フィルムグレイン(粒子)は結晶化した粒の大きさや形で、フィルム(種類やメーカー)によって異なります。

昔は製造ロット毎に品質が変わることから同一作品ではエマルジョンナンバーを揃える事もされていました。   (大昔はベースがセルロイドで作られていたため「フィルムが燃える」問題もありました。)  

 

現像処理

感光剤は光を浴びると変化してしまうのでベースに定着させる必要があります。現像液(薬品)を使用し固定させ、いらない感光剤を洗い流します。(昔はドラマなどで暗室で写真を自家現像しているシーンとかあったんですが、もう見れないですね。) 銀残し(ブリーチバイパス) は現像もしくはプリント時に銀を洗い流す手順を省いた事から生まれました。  

スチル写真ではそれほどロールが長くないのですが、映画の場合、何千フィート、何万フィートというフィルムを処理する必要があります。

大量の現像液と洗浄及び廃液処理が必要で、現像所で処理する必要がありました。現像プロセスがノウハウとして蓄積され、産業として隆興しました。   (映像の長さが尺と呼ばれるのはフィルムの長さ起因します。始め35mmフィルムは16コマで撮影され、丁度1フィート/秒でした。なぜ24コマなのかはRaitankさんが詳しく解説しています。 )   [raitank fountain]Vol.06 シネマのネクスト・ウエーブ、”Higher Frame Rate” とは!? – PRONEWS  

デジタルカメラの出現でこれらの機械的な現像処理は必要なくなりました。フィルムでいうネガやポジに相当するのがRawです。

Rawはセンサーから入力された信号をそのまま記録しており、スクリーンやディスプレイで表示できる階調よりも多くの情報を持っています。(階調はラチチュードと呼ばれます。)  

 

フィルム固有の問題

フィルムには感度があります。フィルムは今のデジタルカメラのように気軽に感度を変更することが出来ません。ISO100のフィルムしかないのに200で撮りたい場合には現像で増感処理を行います。(増感や減感処理は現像時に薬品の濃度や時間で調整します。)また、作品の演出効果として利用することもあります。(処理はラボに出す時に指示を出します)   同様に色温度の問題があります。

フィルムにはタングステンとデイライトという2種類しか存在しません。タングステンは電球光(3200K)デイライトは昼間光(5500K)です。   フィルムカメラではホワイトバランスをオートで取ることは出来ません。(ビデオでは電気的に可変調整が出来ます。)

そのため撮影時に照明にフィルターをかけたり、レンズの前や後にフィルターを入れて色温度を調整し対応します。現場で対応できない場合は後で補正することになります。  

 

プリント処理

現像されたフィルムはプリントし出力します。写真の場合は印画紙にプリントし、映画の場合ポジフィルムに出力されます。(撮影された物からそのままポジ焼きした物を棒焼きとかラッシュと呼びます。)

多くの場合、仮編集はこのラッシュを使用します。   オリジナルのネガフィルムは1本しか存在しません。これを処理するには最新の注意が必要です。そのため複製であるデュープネガを作成します。デュープネガはインターメディエイトフィルムを使用し作成されます。(ビデオでいうところの「やりくり」です。)  

 

オプチカル処理

デュープネガが作成された後オプチカル(光学)処理へと進みます。オーバーラップ、フェード、多重露光、マスキング、拡大縮小などです。これらは物理的にフィルムを重ね合わせ露光させます。

プリント時の露光調整やフィルター調整で色の変更が可能で、この色処理がタイミングと呼ばれます。キーイングやタイトルなどもオプチカル処理です。ネガ編集され最終的な上映用フィルムにプリントされます。  

 

色は誰が決めるのか

映画で色を決定するのはカメラマン(DOP:撮影監督)です。なんで、演出家じゃないの?と思われるかもしれません。スチル写真の場合を考えればよく分かります。

スチル写真はカメラマンが構図や照明や色などのすべての責任を持ちます。これと同じことで、映画の発祥がフィルムでありモーションピクチャーだからです。  

 

ラボが手元にやってくる!

DaVinci Resolveでは光学処理をデジタルで模倣しノード化できます。今までの大掛かりな機械的処理が一切必要なくなりました。フィルムプロセスには多くの時間と手間ががかかります。今では撮影したデータをその日にチェックし変更することが可能です。デジタルシネマカメラが一般的になりラボが手元にやって来ました。        

 

3 thoughts on “グレーディングとフィルムプロセス

  1. raitank says:

    いやしかし。デジタル化によって、どんどん全てが “デスクトップ作業化” されていきますけど、それに連れて、一人の人間が覚えねばならない技術と知識がどんどん増えていく一方ですね?(笑)
    すべてを一人でこなす必要はないとはいえ、少なくとも自分の担当する作業の前後のプロセスについてくらいはキチンと把握しておかいないと、逆にデジタルによるメリットが上手く活かせなかったりして。
    日々勉強。結局そういうことでしょうか? (^_^;)

  2. ishicaw says:

    これだけ色々な事がポータブルで出来るようになったのは喜ばしいことですが、技術に個人の知識が追いつかなくなっている気がします。
    たぶん人も分散処理が必要で、もっと知っている人に聞くとかお願いするといった方が効率よく処理できる気がします。
    いかに知っている人と繋がっているか、お願いできるかはコミュニケーション能力な気がするんですよね。モーションピクチャーの歴史と知識が必要になったりとか…なんか未来に進んでいるんだけど昔に戻っているような不思議な感覚です。
    結局、大事なのは人なんですよね…。

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